渚の螢火で知る1972年

KOZAはロックシティ#11

もうすぐ「渚の螢火」(双葉社)がWOWOWで映像化されます。藤木志ぃさーが琉球警察トップとは感慨深い……ヒューヒュー 川平朝雄役はたしかにエロ男爵しか考えられない!……などとキャストを眺めているだけでおもしろそう。キーマンの宮里武男を演じられる役者は那覇出身なんですね。どんな鋭い眼差しを見せてくれるか期待です。

戦果アギヤーの孤児たちが物語の発端なので思い切り「宝島」とカブるのですが、こちらは1972年5月15日までの一ヶ月間足らずの物語。琉球警察が舞台なので、本土の警察庁に組み込まれる前夜の混乱が描かれます。石垣出身の主人公刑事は二年間の警視庁出向から戻ったばかりで、同僚からは”ないちゃー ぶっとる”、”やまとぅのスパイ”と罵られ「ならば俺は、しまんちゅなのか? うちなんちゅだと胸を張れるのか?」と自問自答する繊細な胸の内を抱えています。本土復帰直前、数週間限定の話でありながら、

  • 米軍知花弾薬庫の毒ガス漏出事故(1969)
  • 沖縄密約事件(西山事件)(1972)
  • 海に捨てられた首里高の甲子園の土(1958)
  • キャラウェイ旋風(1961~1964)
  • 教公二法阻止闘争(1967)

……などなど、さまざまな戦後沖縄の事件が会話中などでエピソードとして綴られます。著者の坂上泉氏は、東大文学部で近代史を専攻された方ゆえか、外交や内政の事件はもちろん、米軍施設にアメ車・国産車の名前やヤクザ抗争の歴史から芸能・テレビネタまで、緻密な時代考証と事実関係構築のもとストーリー展開させているのがニクい。その上で、登場人物にアメリカや本土に対する思いを代弁させているので、1972年当時の空気がリアルに伝わってくるようです。

原作はコザも重要な舞台になっています。その頃のコザを、作者は次のように説明します。

コザの繁華街は、嘉手納基地の第二ゲートから南東に延びるゲート通りと政府道二十四号線が交わる胡屋十字路にかけては、白人兵向けの高級バーやショーパブのネオンが妖しく光る。繁華街は二十四号線に沿うように広がり、周辺にはセンター通りや中の町、諸見里といった街区に飲食店や映画館、連れ込み宿が充実している。一方、黒人兵は白人兵と交わらぬよう、二十四号線を北上した照屋のコザ十字路周辺に集うようになった。

— 坂上泉・著『渚の螢火』(双葉社)より

照屋黒人街に対して白人街といわれた八重島では、覆面潜入捜査する重要な場面がありますが、結局、この物語のコザの印象は薄暗い裏路地と妖しい店ばかりです(笑……八重島地区は南店から徒歩圏内!)。琉球警察つまり現・沖縄県警は当時から那覇の泉崎だったので、だいたいのことはコザ=那覇間で起こるわけですが、個人的には、老舗デパート山形屋の紙袋を持って国際通りを歩く主人公とその妻が見たい。CGなのか? セットを組むのか? どこかでロケするのか? 映像が気になります。そうそう、あさま山荘事件で注目されたトランシーバーと同じ型番は、果たして調達出来るかな。


有名な観光スポットでありつつ、小説「渚の螢火」聖地巡礼においても外せない二箇所が、物語の最初と最後の重要なシーンを担うクラブハウス(将校や財界人たちの社交場)があるとされる波上宮付近。そして、ドンパチが繰り広げられた中城公園。中城公園はキャンプ場や遊具施設もありますが、隣接する、世界遺産である中城城跡まで足を延ばすのが良さそう。


マニアックなポイントとしては、ある登場人物の出生地である「勝連半島(与勝半島)」の平敷屋港。小説で語られていたように、昔はここから中国や台湾との交易が盛んだったことや、密貿易、密入国があったことを、ボーっと海を見ながら想像してください。もちろん今はフェリーで30分足らずの離島・津堅島にしか就航していません。


WOWOWの連続ドラマW枠では、やはり沖縄もの「フェンス」(2023)が、ギャラクシー賞テレビ部門大賞も獲ったほど力作だったので、本作も期待出来してよさそう。「フェンス」が女の友情ものなら、「1972 渚の螢火」では男の友情が見られるはずです(泣ける~)。

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